勉強がうまくいく子の共通点は「教え方」ではなく「環境」だった
今回のインタビューは、菊池洋匡先生。
書籍「マンガで即わかる!学力があと伸びする子の親が大切にしていること」を出版。
長期的な視点で、じっくり子育てするにはどのような視点が必要なのかという点にフォーカスしたお話です。
▼「マンガで即わかる!学力があと伸びする子の親が大切にしていること」

「そろそろ勉強を始めたほうがいいのでは?」「周りはもう塾に通っているみたい」
中学受験する・しないに関わらず、子育てをしていると、こうした不安や焦りを感じる場面は少なくありません。
情報があふれる今の時代だからこそ、何が正解かわからなくなり、つい頑張らせようとしてしまうこともあるでしょう。
今回は、中学受験専門塾「伸学会」代表・菊池洋匡先生より、家庭学習がうまくいく家庭に共通する考え方、そして親がやらなくていいこと・やるべきことについてお話しをうかがいました。
家庭学習がうまくいく家庭に共通すること
〜カギは「教えること」ではなく「環境づくり」〜
まずは家庭学習がうまくいっている家庭はどのような家庭かという視点でお話しをうかがいたいです。

まず挙げると「環境づくり」の重要性ですね。
家庭学習がうまくいっている家庭ほど、親が先生役になりすぎていない、という共通点があります。
「勉強させよう」「教え込もう」とすると、どうしても親の言葉が強くなり、感情が先に立ってしまいます。
その結果、親子関係がギクシャクし、学習そのものがうまく回らなくなるケースも少なくありません。大切なのは、以下のようなポイントです。
- 子どもが落ち着いて取り組める環境
- 失敗しても立て直せる雰囲気
- 長期的なゴールを見据えた関わり方
学習内容よりも先に、「学びが続く土台」=「環境」を整えることが、結果的に成果につながっていくのです。
情報が多すぎる時代だからこそ、「やらなくていいこと」を見極める
情報があふれる今の時代、親はどのような視点で「やること・やらないこと」を選べばよいのでしょうか?
情報が多いから「早く始める=安心」になりやすい
小学校入学前から、計算・ひらがな・先取り学習…。今は、やろうと思えば、いくらでも情報が手に入る時代です。
「出遅れたら取り返しがつかないのでは」「周りがやっているから」と、不安になるのも無理はありません。
実際、未就学時期から取り組むことで、「小学校の学習はスムーズにスタートできる」「できた!という成功体験につながる」「勉強に対する苦手意識が生まれにくい」といったプラスの効果があるのも事実です。
ただし、ここで大切なのは「やること」そのものではなく、関わり方です。
もし「できないこと」に親が焦り、叱ったり、無理にやらせてしまうと、子どもの中に、「勉強=できないもの」「やらなきゃいけないもの」という気持ちが先に刷り込まれてしまいます。
そうなると、本来大切なはずの「何のために学ぶのか」「できるようになるって楽しい」
という目的意識が見えなくなり、結果的に本末転倒になってしまいます。
「やらせる勉強」にならないために、親が持ちたい視点
「この先、どんな状態になっていてほしいのか」という中長期的な視点を持ったうえで、「今やるべきこと」と「今はやらなくていいこと」を判断していくことが大切だと考えています。
ゴールがわからないまま、全力で走ることはできません。目的地が見えていなければ、途中で迷子になってしまうのは当然です。
焦りから手を広げすぎてしまうと、子どもにとって勉強は「終わりの見えない作業」になり、残るのは「やらされている」という感覚だけになってしまいます。
情報が多い時代だからこそ、すべてをやることよりも、やらないことを決める勇気。
それが、子どもの学びを長く、健やかに支える土台になるのです。
学習をきっかけに親子関係がうまくいかない時、回復のカギは「教える」よりも「話を聞く姿勢」
親子関係や学習環境がうまくいかなくなったとき、どのような関わり方が回復のきっかけになるのでしょうか?
実際に現場では、「言葉がきつくなってしまった」「子どもが勉強を拒否するようになった」「親子の会話が減ってしまった」といった悩みを抱える家庭が少なくありません。
「話を聞く姿勢」
関わり方を少し変えるだけで、関係が回復していくケースも多く見られます。
その際、特に大切にしているのが「口出しすること」ではなく、話を聞く姿勢です。
「言えば言うほど悪化する」だからこそ「聞く」を意識してみてください。
学習がうまくいかないとき、親としては「何が原因なのか」「どうすればいいのか」を伝えたくなります。
ですが実は、言えば言うほど状況が悪化してしまうことも少なくありません。
押し付けられたと感じさせてしまうと、子どもの反発を招くからです。
そうならないようにするために、聞く姿勢が重要です。
また、反発を招かないためだけでなく、正しい原因に気付き、正しい対処法を選べるようにするためにも聞くことは大切です。
なぜなら、子どもはまだ語彙力や感情表現が十分に育っていないため、自分の気持ちを正確に言葉にできていないことが多いからです。たとえば、子どもが口にする「つまらない」という一言。
この言葉の裏に隠れている気持ちは、子どもごとにバラバラです。
- 簡単すぎてつまらない
- 競争に負けてつまらない
- 難しくてわからず、つまらない
同じ「つまらない」でも、状況は全く違いますよね?
もちろん必要な対処法もまったく違います。
子どもの「つまらない」の裏にある気持ちを、高い解像度で把握しないと、打ち手を誤ってしまうのがお分かりいただけるのではないでしょうか。
そこで大切なのは、すぐに判断したり正そうとしたりするのではなく、聞くことと、様子を観察することです。
「この”つまらない”って、ほかのことで言うとどんな感じに近いかな?」そんな問いかけを通して、子どもの言葉の奥にある気持ちに寄り添っていきます。
短くてもいいから「向き合う時間」を作ってみよう
「こどもの話をちゃんと聞く時間を作らなきゃ」そう思うほど、かえってハードルが高くなってしまうこともあります。
そこで大切なのは、改めて時間を作ろうとしすぎないことです。
たとえば、
- 学校や塾の送り迎えの車内
- 一緒に家事をしている時間
- 食事の準備中や片付けの時間
こうした何気ないながら時間の有効活用も一つの手段。子どもがふっと本音を話しやすい瞬間でもあります。
長い時間でなくてかまいません。短くても全集中するという時間を意識することが大切です。兄弟が多いご家庭では、特に「一人ひとりと向き合う時間」を意識してあげると、子どもも「自分に向いてくれている」と感じて話しやすくなります。
「さあ、話を聞くよ」と構える必要はありません。ただ、「あなたの話を聞いているよ」という姿勢を示すこと。それだけで、子どもの気持ちが落ち着き、同時に親子関係も少しずつ整っていきます。
勉強が嫌いになった理由は、一人ひとり違う年齢別に考える関わり方
「勉強が嫌い」と感じている子どもには、まずどんな視点で原因を見つめることが大切でしょうか?
「勉強が嫌い」とひとことで言っても、原因はさまざまです。
なぜ「勉強が嫌い」という気持ちになったのか、という原因をみつけていくことが最初かなと思います。
高学年の場合は「比べる相手を「他人」から「過去の自分」へ」
高学年の子だと、「点数が取れない」から嫌いになったという子が多いです。
そうした場合も細かく分けてみると、「親がガッカリしてた姿をするから傷ついた」、「自分なりに頑張ったのに期待していたより点数が低くて失望した」「点数が悪い自分を受け入れられなくて勉強から逃避しようとしている」など、原因はさまざまです。
あとは点数が悪いことそのものよりも、「他者比較」が原因で嫌いになったという子も多いですね。
「周囲と比べて自信を失った」「競争に疲れてしまった」「劣等感に耐えられなかった」といったことが原因になっていることも多いのです。
こうした場合に有効なのが、「勝ち方を教える」視点、そして「他人ではなく、過去の自分と比べる」視点 です。
たとえば過去問に取り組むときも、「点数が取れた・取れなかった」で評価するのではなく
- 今は解けなくて当たり前
- これはゴールまでに何が足りないかを知るための材料
という位置づけを、最初にしっかり共有します。
点数や合格ラインは“評価”ではなく、ゴールまでの通過点にすぎません。
「あと数か月で、何を補えばいいのか」その視点で学習に向き合うことで、数か月後には確実に「できるようになっている状態」が生まれます。
成長は、子ども自身が気づきにくい
ここでとても重要なのが、子ども自身は、その成長に気づいていないことが多いという点です。
数か月前にはまったく歯が立たなかった問題が、今では解けるようになっている。
でも本人は、その変化を当たり前のように受け止めてしまう。
だからこそ、指導者や保護者がその事実に気づき、「前はここで止まっていたけど、今はここまでできているね」と成長を言語化してあげることが大切になります。
その、成長の事実に目を向けられるようになると、失いかけていた自信は少しずつ戻り、学びに向かう気持ちも回復していきます。
低学年の場合は「できない」よりも「やらされた経験」が影響する
低学年のお子さんが勉強を嫌いになる理由は、「できないこと」そのものよりも、「やりたくないのにやらされた」「叱られた」といった経験であることが少なくありません。
無理に続けさせられるうちに、勉強=「つらいもの」「怒られるもの」という印象だけが残ってしまうのです。
だからこそ、「宿題=必ずやらなければならないもの」と最初から決めつける必要はありません。
私の塾では、「これじゃなくて、こっちをやってみたい」という子どもの提案も歓迎しています。
そもそも「できるようになりたい」「点数を上げたい」という気持ちが育っていなければ、無理にやらせても意味がありません。「学校で怒られるから」「塾で注意されるから」といった理由だけで取り組ませていないか、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
大切なのは、宿題のためではなく、成長のために学ぶこと。目的は「終わらせること」ではなく、「できるようになること」です。この原点を、親が見失わないことが何より重要です。
未就学期に大切なのは「経験」と「刺激」
未就学期の子どもにとって、勉強を好きになるいちばんの近道は何でしょうか。
それは、「机に向かうこと」よりも、興味や関心が広がる実体験を重ねることです。
この時期の子どもは、まだ文字情報だけで多くを吸収することができません。
だからこそ、「見て・触れて・感じる」体験を通して、「なんで?」「もっと知りたい」という気持ちを引き出してあげることが何より大切なのです。
特別な教材や特別なお出かけは必要ありません。日常生活そのものが、学びの宝庫だからです。
たとえば、
- スーパーで食材の産地を見る
- 公園や土手で自然に触れる
- 街で見かけた看板の文字や数字に目を向ける
のような日常的な行動で十分です。
例えばスーパーで産地をみた時に「これ、どこで作られているんだろう?」と帰宅して、一緒に地図で調べてみたり、他には何がある地域なんだろうと会話を広げてみたりしてもいいでしょう。そんな何気ない会話や体験の一つひとつが、子どもの好奇心を育てていきます。
一方で、スマホや動画は刺激がとても強く、受け身になりがちです。強い刺激に慣れてしまうと、日常の小さな発見が「つまらない」と感じやすくなることもあります。
だからこそ、できるだけ実体験を入り口に、「楽しい」「もっと知りたい」と思える機会を増やしてあげることを意識しましょう。
その積み重ねが、やがて自ら学びに向かう力となり、後の学習意欲の土台になっていくのです。
親自身が「余裕のある状態」でいること
最後に、子どもの学びを支えるうえで、保護者が意識できるようなアドバイスをいただきたいです。
「子どものために何をしてあげればいいか」と考える前に、ぜひ大切にしてほしい視点があります。
それは、親自身がいいコンディションでいられているかどうかです。
子どもの学びというと、どうしても子ども側の努力や工夫に目が向きがちです。実は、日々いちばん影響を与えているのは、保護者の心の状態かもしれません。
忙しさや疲れからイライラしてしまい、ついきつい言葉をかけてしまったり、テストの結果に一喜一憂して、感情的になってしまったり、そんな経験は、誰にでもあるはずです。
心身ともに余裕のない状態で向き合っても、親子にとっていい循環は生まれません。
そんな時はむしろ、少し立ち止まって自分の時間を取り、気持ちを整えてから子どもと向き合う。
そのほうが、ずっと建設的な関わりができるのではないでしょうか。
最近はSNSなどで、完璧に見える子育ての情報があふれています。
ですが、「あの人みたいにならなきゃ」と無理にロールモデルを追いかける必要はありません。
知識やテクニック以上に大切なのは、親が穏やかでいられること、安心してそばにいられること。「これはやらなくていい」「今は手放してもいい」そうやって肩の力を抜くことも、立派な選択です。
親が笑顔でいられること。それこそが、子どもにとっていちばんの学習環境なのかもしれません。
学びの土台は、「やらせる力」ではなく「向かう力」
RISUが大切にしているのも、自分で考え、取り組み、やり切る力です。
点数や結果の前に、学びに向かう姿勢が育っているかどうか。家庭学習も、受験も、その本質は同じなのかもしれません。
「勉強させなきゃ」と思ったときこそ、一度立ち止まり、環境と関わり方を見直してみる。それが、子どもにとっても、親にとっても、長く続く学びへの第一歩になるはずです。

■菊池洋匡|中学受験専門塾「伸学会」代表
ープロフィールー
算数オリンピック銀メダリスト。開成中・高、慶應義塾大学法学部法律学科卒。10年間の塾講師経験を経て、2014年に伸学会を自由が丘に開校。現在は目黒校・中野校・飯田橋校・表参道校を開校し5教室を展開している。「自ら伸びる力を育てる」を理念に、スケジューリングやPDCAなどのセルフマネジメント指導と、成長するマインドセットを育てるコーチングを実践。教育心理学に基づいた指導が支持を集め、メルマガ登録者は約12,000人、YouTube登録者は約11万人にのぼる。
伸学会HP https://www.singakukai.com/




