親が目指すゴールは「偏差値」だけじゃない 教育のプロに聞く「自己決定できる子」の育て方
RISUでは日々、保護者の方から多くのご相談をいただきます。成績や受験の話がきっかけではありますが、突き詰めると、「この子は将来ちゃんと自分で生きていけるでしょうか」そんな不安に行き着くケースは少なくありません。
今回のインタビューは、リザプロ株式会社 代表取締役の孫辰洋さん。
書籍「12歳から始める本当に頭のいい子の育て方」を出版。
「これからの時代に本当に必要な力」について率直に語っていただきました。
▼「12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた」

大学入試の変化で、子育てのゴールも変わっている
受験の前提が大きく変わっているとのことですが、保護者がまだ気づいていないポイントはどのような部分でしょうか。
大学入試がここ数年でかなり変わっているんですね。
その変化をきちんと理解している保護者の方は、実はそんなに多くないと感じています。
自分たちが受験した頃のイメージのまま、子どもの進路を考えてしまっているケースがほとんどなんです。
だから、どうしても「偏差値」とか「順位」みたいな数字に目が向きやすい傾向にあります。
その結果、中学受験の合否や模試の結果に、一喜一憂しすぎてしまうんですよね。
12歳とか13歳の結果で、「この子は成功だ」「失敗だ」みたいに判断してしまう。
でも、これは本来は途中経過にすぎません。長い人生で見れば、通過点のひとつです。
そこに感情を振り回されすぎると、子どもも親も、すごく辛くなります。
それが一番もったいないなと思っています。
「計算が速い子」だけでは通用しない。評価は「スキル」から「活用力」へ
昔の入試って、わかりやすかったんですよね。算数の計算が速いとか、難しい問題を正確に解けるとか、微分積分をどれだけ処理できるかとか。いわば「スキル勝負」型の入試といえるでしょう。
知識量や処理スピードなどが、そのまま評価につながっていたんです。
でも今はまったく違っていて、偏差値やテクニックだけでは通用しなくなってきているんですね。
最近の入試は、「それを使って何ができるの?」と応用の部分を聞いてくるイメージです。
数学を使って社会課題をどう考えるのか。データをどう読み取って、自分の意見をどう表現するのか。
単なる正解スピードじゃなくて、活用力や応用力が問われているんですね。
だから、偏差値やテクニックだけでは、正直もう通用しない時代なんです。
とはいえ、偏差値そのものが悪いわけじゃないんですよ。評価としての数値は、分かりやすいし便利です。
ただ、それをゴールにしてしまうのは危ない。その時の算数の点数で「この子はできる・できない」って評価してしまうと、子ども自身が何のために勉強しているのかが分からなくなってしまうんです。
目的が抜け落ちちゃうんです。
「自分で決めることができる子」親がいなくても選べる力を育てる
では、先生が考える「ゴール」とはどこにあると思いますか?
一言で言うと、親に聞かなくても自分で決められる子を育てることですね。
どこの学校に行くか、どんな仕事をするか、それを親や先生に決めてもらうんじゃなくて、自分で選べる状態、ここがゴールだと思っています。
実は、大学生になっても親に聞かないとわからない、または親が進路を決めているケースが増えています。
学部も、就職先も「親が安心するから」「先生にすすめられたから」で選んでしまう。
一見まじめなんですが、これは自分の人生を自分で選べていない状態なんですよね。
なぜこうなるかというと、シンプルで、自分なりの決断基準を持っていないからなんです。自分なりの基準がないと、人はどうしても正しそうな意見に流されがちです。
なんとなく英検を取る。
なんとなく塾に行く。
なんとなく受験する。
こういう「なんとなく」を積み重ねてしまい、結果必ず迷うんです。
一方、「自分はこれがやりたいからこの選択をする」っていう価値基準がある子は、ブレません。
これを「自己決定力」とか「自走力」って呼んでいます。
その「自走力」を育てるために、親はどんな関わり方をすればいいのでしょうか?
まず「やりすぎないこと」ですね。
保護者の方って、本当に一生懸命なので、つい全部決めてあげたくなるのはすごく気持ちがわかります。ですが、それは過干渉になりやすいです。
失敗しないように先回りする。
転ばないように道を整えてあげる。
一回のテスト結果で一喜一憂してしまう。
一見、愛情に見える行動ですが、これを続けると、子どもは「自分で決める経験」を持てなくなってしまいます。
親が全部準備してしまうと、子どもは選ぶ側になれないんですよね。
いつも与えられる側のまま育ってしまいます。
親がやっていいのは、「選択肢の提示」と「選択肢の拡張」まで。
情報を集める、可能性を見せる、ここまではOKです。
「どれを選ぶか」は、本人に任せたほうがいい。決断の経験そのものが、自己決定力を育てます。
偏差値より「社会を見る目」。本当に賢い子は社会をみる解像度が違う
先生がこれまで多くの生徒を見てきた中で、偏差値とは別の視点での「賢い子」について教えてください。
ずばり、社会への解像度が高い子ですね。
たとえば世の中にはどんな職業があって、どんな人が関わっていて、社会がどう動いているのかといった視点で社会がみられる子ども。
そこが見えている子は、やっぱり強いですね。
たとえば、食品ロスに興味を持った子がいたんです。普通だったら「もったいないよね」で終わる話なんですが、その子は違いました。
食べ物に関わる農家さん。
物流、小売。
消費者。
行政。
など、この「食品ロス」一つにとっても、こんなにたくさんの人が関わっているのだと、一つひとつ調べていったんです。
そうすると、だんだん「自分はこの食品ロスに対して、この立場から関わりたい」というのが見えてきます。そうすることで、職業や社会への解像度が上がり、選択肢も具体的になってきます。
もう一つ例にだすと、野球が好きな子もいました。保護者の方も野球が好きで、野球観戦によく連れて行ったと聞いていました。
普通だと「自分がプロ野球選手になりたい」という選択になると思うんですが、その子は、日本の野球に貢献したいと言ったのです。
彼は、野球の裏側まで調べていました。
日本のスター選手がどんどんメジャーリーグに流出している現状。
球団の経営。
育成システム。
スポンサーやビジネスの仕組み。
野球=選手だけじゃなく、社会全体の構造として見ていたんですね。
だから「自分はプレーする側じゃなくて、運営や経営の側から支えたい」と考えたんです。そして、その目標から逆算して行動を始めました。
海外球団とも交渉できるように英語を学び、ビジネスを学ぶために経済学部を選択。
「好きだから」ではなく、 「この役割を担うために、この進路を選ぶ」という思考です。
これが「選べる子」の強さなんですよね。将来像が具体的だから、迷わない。
だから勉強もやらされるものじゃなくて、「必要だからやるもの」になるんです。
「親が疲れたら負け」。体験は増やすより「振り返る」ほうが効く
「子どもの好きなことを見つけてあげたい」と思って、習い事や体験をたくさんさせるご家庭も多いと思います。何かさせたほうがいいのでしょうか?
まず大前提として、これだけはお伝えしたいんですが「親が疲れたら負け」です。
何か新しい体験をしたり、習い事をする前に、これまでの体験に対して「親子で振り返りをする時間」を作ってほしいです。
保護者の方って、本当に一生懸命なので、あれも体験させよう、これも行かせようって、どんどん予定を入れてしまうんですよね。
でも、それで親がヘトヘトになってしまったら、本末転倒です。無理して詰め込んでも、あまり意味はないと思っています。
たとえば、小学校4年生のときにお母さんと一緒に川について話した、その記憶がずっと残っていた子どもがいました。
それがきっかけで水やダムに興味を持って、高校ではダムの研究をして、最終的に大学の進路にもつながっていった。
特別なイベントではなく「家で一緒に話した時間」が、人生を決めているケースも多いです。
体験そのものは悪いわけではなく、「やりっぱなし」が一番もったいない。
たとえば、家で一緒に料理をする時でも親子で
「どうだった?」
「何が楽しかった?」「何がイヤだった?」
と改めて話す時間をつくる、この習慣のほうが、よっぽど大事ですね。
それだけで、子どもは自分の「好き・嫌い」を言語化できるようになります。
これが自己理解につながって、将来の選択につながっていくんです。
最後に、保護者へメッセージを
子育てに悩んでいる保護者の方へ、ひと言お願いします。
実は、子育てってもっとシンプルでいいと思っているんです。
「挨拶ができる、家族で会話がある。」それだけで、子育ての9割は成功しているのではないでしょうか。
偏差値とか受験って、あくまでオプションなんですよ。
もちろん結果として大事な場面もありますが、人生の本質ではない。
成績はゴールじゃなくて、ただの通過点です。数字を追いかけすぎなくていいと思います。
だからこそ、意識してほしいのは、「他のご家庭と比べないこと」と「少し客観性を持つこと」ですね。
周りを見ると焦ってしまうけど、子どもの成長って本当に一人ひとり違うのが当たり前ですから。
さらに大きくなった子に「小さい頃いろんな体験させてもらったでしょ?」って聞くと、意外と覚えてないんですよ。
親が一生懸命連れて行った場所や習い事って、案外記憶に残っていない。
でも、家で話したことや、一緒に笑った時間は、不思議と覚えているんです。
だからこそ大切なのは、特別な体験よりも、日常のコミュニケーション。
家庭での会話が、いちばんの土台です。
もし教材や塾を使うなら、詰め込むためじゃなくて、親子で話す時間や心の余裕をつくるために使う、そのくらいのスタンスで、ちょうどいいと思います。
〈RISUより〉
私たちも、子どもが自分で考え、前に進む力を育てることを大切にしています。点数や結果の前に、日々どんな対話を重ねているか。改めてその積み重ねこそが、学びの土台になるのだと改めて感じました。

■孫辰洋|リザプロ株式会社 代表取締役
ープロフィールー
2000年、埼玉県生まれ。2023年、早稲田大学政治経済学部卒業。日系華僑の両親のもと生まれ、日本とアメリカ・ニュージーランド・中国を何度か行き来しつつ、中学校の途中から本格的に日本に拠点を移す。高校3年生の時、中国の名門・清華大学と早稲田大学政治経済学部などに総合型選抜入試(旧AO入試)で合格。
この時中国で出会った世界各国の受験生と日本の同世代の人たちとの大学や勉強に対する考え方の違いに直面し、日本の教育業界に携わることを決意する。
2019年、早稲田大学政治経済学部に入学、同時に起業。自らの総合型選抜入試での経験を活かしたオンライン家庭教師を開始し人気を博す。2020年6月にリザプロ株式会社を設立し代表取締役に就任。総合型選抜入試に特化した日本初の塾として、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学など、多くの名門大学に合格者を輩出。
現在は、これまでの知見をもとに『12歳からの頭のいい子の育てかた』 を通じて、勉強が得意になる前に家庭で育てておきたい「考える力・伝える力」の大切さを伝えながら、目先の成績にとらわれず、子どもが一生使える“思考の土台”を育てる教育を実践している。
リザプロ株式会社HP:https://www.singakukai.com/




