RISU 学び相談室

子どもが「言葉にできない」理由とは?家庭で育てる言語化力のヒント

伝える力【話す・書く】研究所所長/山口拓朗ライティングサロン主宰 山口拓朗様

「今日どうだった?」と聞いても、「別に」「普通だった」としか返ってこない。
そんなやり取りに、もどかしさを感じたことはないでしょうか。

子どもが自分の考えや気持ちを言葉にできない背景には、家庭環境や社会の変化など、いくつかの要因が重なっています。

しかし、言語化力は特別なトレーニングがなくても、日常の会話の中で少しずつ育てることができます。
親の関わり方や読書習慣、スマホの使い方など、家庭でできる工夫によって、子どもが「考えを言葉にする力」は着実に伸びていきます。

今回のインタビューは、伝える力【話す・書く】研究所所長/山口拓朗ライティングサロン主宰の山口拓朗さん。
書籍『こども言語化大全』を出版。
子どもが言葉にできない背景と、言語化力が学びや人間関係に与える影響、そして家庭でできる具体的な関わり方についてお話をうかがいました。

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子どもが「言葉にできない」背景にある、いくつかの変化

「言葉にできない子ども」が増えている背景には、いくつかの要因が重なっていると考えられます。

家庭内コミュニケーションの変化

まず一つは、家庭内のコミュニケーションの変化です。
極端な例ですが、同じ家の中でも、親はスマホ、子どもは動画やゲームと、それぞれ別の画面を見て過ごしている家庭も少なくありません。

以前に比べると、自然な会話が生まれる機会は減ってきているのではないかと思います。

コロナ禍による会話経験の減少

コロナ禍の影響もあるでしょう。マスクの着用や会話を控える生活が続いたことで、子ども同士が自由に話す機会が減った時期がありました。
「あまり話さない」というより、「話せない」状況が長く続いたことも、言葉のやり取りが減る要因の一つと考えられます。

読書量の減少と言葉のインプット不足

さらに、読書量の減少も関係している可能性があります。
絵本や児童書など、子ども向けの本は多くありますが、文章に触れる機会が減ると、新しい言葉を獲得する機会も少なくなります。

読書は言葉を覚えるだけでなく、「どんな場面で使われるのか」を学ぶ機会でもあります。

そうした経験が少なくなると、言葉を使う感覚も身につきにくくなるかもしれません。

「やばい」に代表される言葉の簡略化

もう一つ特徴的なのが、「やばい」など、少ない言葉で多くの意味を表してしまうコミュニケーションです。

例えば「やばい」という一言で、「面白い」「つまらない」「おいしい」「まずい」など、さまざまな意味が表現されることがあります。

日本語には、文脈や雰囲気から意味を読み取る「ハイコンテクスト」の文化があります。
言葉だけでなく、表情や状況といった非言語の情報から相手の意図を察することができるのは、日本語の特徴でもあります。
ただ、その傾向が強くなりすぎると、「言葉にしなくても伝わるだろう」という前提が強くなります。

その結果、「なんとなく伝わるはず」という感覚が広がり、言葉を丁寧に使う機会が減っている可能性もあるのではないでしょうか。

言語化力は「伝える力」だけでなく、理解や感情整理にも影響する

言語化力とは、簡単に言えば「頭の中の情報や気持ちを、言葉で的確に表す力」です。
言いたいことは頭の中にはあるのに、それをうまく言葉にできない。そうした状態を解消する力とも言えます。

また、この力は単に「話す能力」だけを指すものではありません。
実は、言語化力は文章を理解する力や、相手の話を正しく受け取る力とも深く関係しています。語彙が少ないと、文章を読んだときに意味の分からない言葉が増えます。すると、文章全体の意味を正しく理解することが難しくなります。
つまり、言語化力はアウトプットだけでなく、読解力や理解力といったインプットの力にも影響するのです。

こうした言語化力が十分に育っていない場合、子どもはさまざまな場面で困る可能性があります。ここでは、将来にも関わる主な影響を4つのポイントに分けてお話しします。

  1. 言いたいことが伝わらず、誤解やトラブルが起きやすい
    言語化力が低いと、自分の考えや状況を正確に伝えることが難しくなります。
    例えば、友達と何かを一緒に進める場面で自分の考えをうまく説明できず、意図が伝わらないと、誤解やミスが生まれやすくなります。

    また、落ち込んでいる友達に声をかけたり、困っている人に「大丈夫?」と伝えたりするような場面でも、言葉で状況や気持ちを表現できるかどうかによって、人との関係性に差が出てくるのです。
  2. 読解力や理解力に影響し、学習面にも関わる
    言語化力は、読解力や理解力とも密接に関係しています。語彙が少ない状態は、言い換えれば「情報が少ない状態」ともいえます。
    言葉を知らないと、物事を比較したり判断したりする材料が不足してしまいます。また、問題文や設問を読んだときに意味を正確に読み取れず、「何を聞かれているのか分からない」という状況にもつながることがあります。
    その結果、答えを導くことが難しくなることもあるのです。
  3. 感情を整理できず、気持ちのコントロールが難しくなる
    人は自分の感情を、言葉を通して理解しています。
    例えば「寂しい」「悔しい」「切ない」「嫉妬」など、感情を表す言葉が増えるほど、自分の気持ちをより正確に捉えられるようになります。自分の感情を言葉で理解できれば、「なぜそう感じているのか」「どうすればこの気持ちを解消できるのか」といった解決策も考えやすくなります。
    一方で、言葉が少ないと、イライラやモヤモヤした気持ちを整理できず、感情が爆発してしまうこともあります。子どもの場合、それが癇癪のような形で表れることもあるでしょう。
  4. 困ったときにSOSを出せない
    もう一つ大きな問題として、「相談ができない」という点があります。困っていることがあっても、それを言葉にできなければ、先生や保護者に状況を説明することができません。
    つまり、本当は助けが必要なのに、SOSを出せない状態になってしまうのです。

    一方で、言葉で自分の考えや気持ちを伝えられる子どもは、「自分の思いが伝わった」という経験を積みやすくなります。
    こうした成功体験は自信につながり、自己肯定感を育てることにもつながっていきます。

言語化力は、日常の会話の中で伸ばすことができる

言語化力を伸ばすうえで大切なのは、子どもが言葉で説明する機会を日常の中でつくることです。
特別なトレーニングが必要なわけではなく、むしろ普段の会話の中にヒントがあります。

先回りせず、子どもの言葉を引き出す

まず大切なのは、親が子どもの言葉を先回りしてしまわないことです。

例えば、子どもが「お腹すいた」と言ったとします。
多くの場合、親はすぐに食べ物を用意してしまうかもしれません。

しかし、「お腹すいた」という言葉だけでは、具体的なことは伝わっていません。そこで、「それで、どうしたいの?」と一歩踏み込んで聞くことが大切です。

「何が食べたいの?」
「果物?それともお菓子?」

こうした問いかけを重ねることで、子どもは少しずつ具体的な言葉で表現するようになります。
例えば学校から帰ったときも、「今日は何があったの?」と本人の言葉で説明させることが大切です。大人が答えを先に言うのではなく、子ども自身に考えて話させることがポイントになります。

子どもの言葉を否定せず、まず受け止める

もう一つ大切なのは、子どもの言葉を否定しないことです。
話した内容に対してすぐに「それは違う」「あなたが悪い」と言ってしまうと、子どもは話すこと自体をやめてしまいます。

まずは「あなたはそう思ったんだね」と受け止めること。そのうえで、必要があれば親の考えを伝えることが大切です。
このように受け止めてもらえる経験が、子どもに安心感を与えます。

子どもの質問は「考える力」を育てるチャンス

子どもが質問をしてきたときも、言語化力を伸ばす大切な機会です。
例えば、「なんで大人はスマホを使っていいの?」と聞かれたとき、「大人だから」と答えて終わらせてしまうこともあるでしょう。

しかし、「どうしてだと思う?」と問い返してみると、子どもは自分なりに考え始めます。
「目が悪くなるからかな」
「勉強する時間がなくなるから?」
こうしたやり取りの中で、子どもは考えたことを言葉にする経験を積んでいきます。
その積み重ねが、言語化力を育てていくのです。

語彙力を広げる「読書」と「スマホ活用」

言語化力を伸ばすうえで、読書は大きな役割を果たします。
ただし、「この本を読みなさい」と親が押し付けても、子どもはなかなか興味を持ちません。
大切なのは、その子が好きなジャンルから入ることです。
恐竜が好きなら恐竜図鑑でもいいですし、スポーツが好きなら選手の本でも構いません。興味のある分野の本は、子どもにとって「知りたいことが書いてある宝箱」のようなものです。
そこから自然と語彙や文章の流れを理解する力が育っていきます。

また、読書習慣をつくるうえでは、親が見本を見せることも大切です。
親が本を読んでいる姿を見せることで、子どもも自然と本に興味を持つようになります。

親子の内容を知るだけでなく、「親が自分のために時間を使ってくれている」という安心感や、親子で同じ物語を共有する体験にもつながります

「次はどうなるんだろうね」
「この主人公はどんな気持ちかな」
といった会話をしながら読むことで、子どもは自然に考えたり、言葉で表現したりする経験を重ねていきます。

スマホは「使い方次第」で学びのツールにもなる

スマホも、使い方次第だと思います。
動画を流しっぱなしにするような受動的な使い方は、脳にとってあまり良いとはいえません。
そのため、家庭である程度ルールや時間を決めることは大切です。
このときも、親が一方的に決めるのではなく、「1日どれくらいなら良さそう?」と子ども自身に考えさせるとよいでしょう。
自分で決めたルールは守りやすく、その過程でも「なぜこの時間にするのか」を言葉で考える経験になります。

言葉を調べるツールとして活用する

スマホは、言葉を調べるツールとしても活用できます。

例えば以下のような使い方です。

  • 分からない言葉の意味を調べる
  • 類語や反対語を探す

言葉はネットワークのようにつながっています。一つの言葉を調べると、そこから別の言葉へと広がっていきます。

例えば、「ずぼら」という言葉を調べると、反対語として「几帳面」や「誠実」、似た意味の言葉として「まじめ」「正直」などが見つかります。
このように言葉同士の関係を知ることで、語彙は自然に広がっていきます。

言葉の意味を説明するには、別の言葉が必要です。つまり言葉は単独ではなく、互いにつながるネットワークのようなものです。
そのため、分からない言葉を調べることは語彙力を広げる良いきっかけになります。

ただし、調べただけでは言葉は忘れてしまいがちです。
大切なのは、実際に使ってみることです。

語彙には「理解語彙」と「使用語彙」の二つがあります。
意味を知っているだけの言葉(理解語彙)を、自分で使える言葉(使用語彙)にしていくには、インプットした言葉を会話や文章でアウトプットする経験が欠かせません。

こうした積み重ねが、言葉の力を少しずつ育てていきます。

「言語化は、親子の理解と信頼を深める力になる」

言語化の機会を増やしていくと、意外な発見があります。
それは、「子どもがそんなことを考えていたとは知らなかった」という親の驚きです。

会話の中で言葉にしていくことで、子どもが普段は表に出していなかった考えや気持ちが、少しずつ見えてくるようになります。

また、親が自分の考えを言葉にすることで、子どもにとっても「親はこんなふうに考えていたんだ」と理解するきっかけになります。
こうしたやり取りは、親子の相互理解や信頼関係にもつながっていきます。

言語化とは、単なる学習スキルではありません。
人と人との理解を深め、心の距離を近づけるコミュニケーションの力
でもあります。

まずは家庭の中で、言葉のキャッチボールを少し増やしてみること。
それが、子どもの言語化力を育てる第一歩になるのかもしれません。

■山口拓朗|伝える力【話す・書く】研究所所長/山口拓朗ライティングサロン主宰

ープロフィールー
出版社で編集者・記者を経て独立。28年間で3800件以上の取材・執筆歴があり、現在は「論理的に伝わる文章の書き方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「売れる文章&コピーの作り方」など、言語化やアウトプットの分野で実践的なノウハウをセミナーやメディアを通して提供。言語化力が低下しているデジタルネイティブ世代からの支持も高く、子ども向けのセミナーも好評を博す。著書『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)では、言語化の本質を「語彙力」「具体化力」「伝達力」の3ステップに分け、それぞれを強化する実践的手法が分かりやすいと評判を呼び12万部を突破。30冊以上の著書があり、海外でも25冊以上が翻訳されている。NHK「あさイチ」ほかメディア出演も多い。

・山口拓朗公式サイト
 https://yamaguchi-takuro.com/
・山口拓朗のX
 https://x.com/yamatakuro
・山口拓朗のYouTube「文章の専門家・山口拓朗の公式チャンネル」
 https://www.youtube.com/c/yamatakuTV

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